神戸地方裁判所 平成8年(ワ)1900号 判決 2000年2月24日
原告
曺初美
被告
株式会社サンキット
ほか一名
主文
一 被告株式会社サンキットは、原告に対し、金二一九八万〇八二五円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告木下光穂は、原告に対して、金六二五三万三五五〇円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告の被告株式会社サンキットに対するその余の請求及び被告木下光穂に対するその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用はすべて被告らの負担とする。
五 この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告らは、各自原告に対して、金六六七〇万一五五〇円及びこれに対する平成五年七月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)によって負傷した原告が、被告木下光穂(以下「被告木下」という。)に対しては、民法七〇九条に基づき、被告株式会社サンキット(以下「被告会社」という。)に対しては、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、損害の賠償を求めた事案である。
附帯請求は、本件事故発生の日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金である。
二 なお、被告木下は、適式の呼び出しを受けたが、本件口頭弁論期日に出頭しない(答弁書と題する書面は提出したものの、原告の請求及び主張に対する答弁の記載はない。)。
次の「三 前提となる事実」及び「五 当事者の主張」のうち1(一)及び2(一)の原告の各主張が、被告木下に対する原告の請求原因である。
三 前提となる事実(原告と被告会社との間で争いがない。)
1 本件事故の発生
(一) 発生日時 平成五年七月一六日午後八時三五分ころ
(二) 発生場所 神戸市灘区一王山町八番一八号先道路
(三) 争いのない範囲での事故態様
被告木下は、普通貨物自動車(神戸一一ぬ一四五〇)を運転して南進中、自車前方を先行していた訴外田中透運転の普通貨物自動車の右後部に自車左前部を衝突させ、さらに、自車を対向車線に進出させて、対向北進してきた原告運転の普通乗用自動車(神戸五二に三八三三)の前部に自車前部を衝突させた。
2 責任原因
被告木下は、事故現場道路が最高速度を五〇キロメートル毎時と指定され、かつ、一〇〇分の七の下り勾配であったから、予め右指定速度を遵守するはもとより、当時自車前方約三〇メートルの地点を先行する訴外田中透運転の普通貨物自動車を認めていたのであるから、同車の動静を注視し、かつ、ブレーキを的確に操作し、同車と安全な間隔を保持して進行すべき業務上の注意義務があるのに、これを怠り、同車の動静注視不十分のまま、漫然時速七〇ないし八〇キロメートルの高速度で同車を追い上げ進行した過失により、同車に急接近し、あわてて急制動及び右転把したが及ばず、自車を右田中運転の車両に衝突させて同車両を逸走させたうえ、さらに自車を対向車線に進出させて原告運転車両に衝突させたものであるから、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。被告会社は、被告木下運転車両を所有し、自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、本件事故で負傷したことにより原告が被った損害を賠償する責任がある。
(本件事故が被告木下の一方的過失によるものかについては、被告会社は争う。)
3 原告の受傷
原告は、本件事故により脳挫傷、多発性脳神経損傷、肋骨骨折、顔面骨骨折の傷害を負った。
4 原告の受けた治療
原告は、神戸市立中央市民病院において、次のとおり治療を受けた。
(一) 平成五年七月一六日から同年八月三〇日まで、同病院脳神経外科に入院(入院日数四六日)。同年八月三一日から平成七年三月一〇日まで、同科に通院(実通院日数は二三日)。
(二) 平成五年七月一六日から平成七年三月六日まで、同病院形成外科に通院(実通院日数一三日)。
(三) 平成五年七月一九日から平成七年三月一〇日まで、同病院眼科に通院(実通院日数一三日)。
5 原告の後遺障害の程度及び等級
原告には、次のとおりの後遺障害が残った(このほか、複視及び顔面醜状痕の有無等について争いがある。)。
(一) 右眼の調節機能の著しい障害(自賠法施行令別表(以下単に「別表」という。)一二級一号に該当)
(二) 右眼視力が〇・六以下に低下(別表一三級一号に該当)
(三) 右三叉神経の障害(別表一四級一〇号に該当)
6 損害填補
原告は、被告会社から、休業損害金の内金として金六〇万円の支払いを受けた。
四 争点
1 原告の後遺障害の程度―複視及び醜状痕について
2 原告に生じた損害額
五 当事者の主張
1 争点1(後遺障害)について
(一) 原告
原告には、本件事故による多発性脳神経損傷等に起因して、前記二5の各後遺障害のほか、次の後遺障害が残ったもので、総合して別表六級に該当する。
(1) 複視
右眼に眼瞼下垂が存在するほか、右眼が外斜視となり、眼球運動が外転を除く全方向で制限され、車の運転、テニスなどの運動、読書も著しく制限される。日常生活は片眼のみで支えられている。別表七級一号該当と言うべきである。
(2) 顔面醜状
眼裂が左右非対照となり、かつ眼球運動が同調しないという状態であって、顔面の醜状というべく、別表七級一二号に該当する。少なくとも別表一二級一四号に該当する。
(二) 被告会社
原告の後遺障害は、<1>右眼視力低下(別表一三級一号)、<2>右調節機能障害(別表一二級一号)、<3>正面視での複視(別表一二級相当)、<4>右三叉神経障害(別表一四級一〇号)に該当し、総合して併合第一一級と考えるべきである。
複視をもって、片眼の失明(別表七級一号)と同視することはできない。眼球運動の不調和は、顔面の常態ではないから、顔面醜状とはいえない。
2 争点2(損害額)について
(一) 原告
(1) 付添い看護費用 二七万六〇〇〇円
生死を分けるほどの重傷であったため、母及び妹が付き添った。入院一日あたり六〇〇〇円の割合による付添い看護費用を要し、入院日数は四六日である。
6,000×46=276,000
(2) 入院雑費 五万九八〇〇円
1,300×46=59,800
(3) 交通費 二四万五〇〇〇円
症状からして、公共交通機関を利用することは困難であった。通院一回あたり平均して五〇〇〇円の割合による交通費(タクシーを利用)を要し、通院日数は四九日である。
5,000×49=245,000
(4) 休業損害 五〇〇万円
原告は、本件事故当時、仙台市南三番町にある東楽商事株式会社の経営する遊技場の仕事に従事しており、月額収入は二五万円であった。
ところが原告は、本件事故による傷害のため、事故当日から現在に至るまで就業できていない。
右損害額は、事故日から症状固定日までの休業による損害である。
(5) 逸失利益 四〇七五万二七五〇円
原告の事故当時の給与月額は二五万円、別表六級の後遺障害による労働能力喪失率は六七パーセント、症状固定時三一歳であった原告の就労可能年数三六年に対応するホフマン係数は二〇・二七五である。
250,000×12×0.67×20.275=40,752,750
(6) 傷害慰謝料 三〇〇万円
(7) 後遺障害慰謝料 一〇三六万八〇〇〇円
(8) 弁護士費用 七〇〇万円
(二) 被告会社
(1) 原告が入院した際には、完全看護だったから、付添い看護の必要はなく、付添い看護費用の請求は理由がない。
(2) 通院した全期間についてタクシーを利用しなければならないということはありえず、タクシーを必要とした時期、回数の主張、立証がなく、原告の請求は理由がない。
(3) 原告は、毎月二五万円の給料を得ていたと主張するが、原告の実父ないしその経営する会社から給料名目で金員を受け取っていたのであり、その全額が原告の労働の対価である給料と考えるのは不自然である。平成五年当時の二九歳女子の平均賃金は月額二一万〇一〇〇円であるから、原告の収入もこれを基礎とすべきである。
(4) 原告の後遺障害は併合一一級と考えるべきであり、その場合の労働能力喪失割合は二〇パーセントである。そして、原告の収入が月額二一万〇一〇〇円と考えるべきであり、また、原告の複視は手術により回復可能であり、適時に手術を行えば労働能力の回復は期待できたから、労働能力喪失期間も、通常手術を行うと考えられる時期までに限定されるべきである。
(5) 傷害の慰謝料についての原告の主張は理由と根拠が不明である。
(6) 原告の後遺障害が併合一一級と考えるべきであるが、その場合の後遺障害慰謝料金額は三三〇万円が相当である。
第三 被告会社関係の、争点に対する判断
一 争点1(後遺障害)について
1 証拠(甲二ないし四、証人佐藤、原告本人、鑑定嘱託による鑑定人三村治の鑑定結果)によると、次の事実が認められる。
原告は、平成五年七月一六日、本件事故により半昏睡状態で神戸市立中央市民病院の脳神経外科に救急搬入され、脳挫傷、多発性脳神経損傷(右のⅡ視神経、Ⅲ動眼神経、V2三叉神経の損傷)、肋骨骨折、顔面骨骨折の診断のもと、保存的治療を目的に、同年八月三〇日まで同科に四六日間入院した。退院後も同科のほか、同病院眼科、形成外科への通院が続けられ、平成七年三月一〇日に症状固定と診断された。脳神経外科への通院実日数は二三日であった(眼科及び形成外科への通院実日数はそれぞれ一三日であったが、脳神経外科入院中のものを含む。)。
2 前項掲記の証拠によると、本件事故による多発性脳神経損傷等に起因して原告に残った後遺障害について、次のとおり認められる。
<1> 視力低下
右のとおり、受傷当初から視神経(第Ⅱ脳神経)が損傷したものと診断されていたが、治療中あるいは鑑定時におけるフリッカー値は右眼の方がむしろ良好で、右眼動的視野でも異常を認めないので、視神経損傷は、当初から発生しなかったか、少なくとも鑑定時(平成一一年七月一三日時点)には治癒している。ただし、視力障害は、今回の外傷に起因する瞳孔の散大と調節筋の障害によるものと判断され、後遺障害としては、眼鏡矯正では視力が〇・六止まりであるため、一眼の視力が〇・六以下になったものとして、別表一三級一号に該当する。
<2> 右眼の調節機能障害
鑑定時の測定によると、右一・〇D、左七・三Dと、右眼の散瞳状態と整合性のある、高度の調節力の低下が右眼に認められた。後遺障害としては、一眼の眼球に著しい調節機能障害を残すものとして、一二級一号と判断される。
<3> 複視
原告は、意識覚醒当初から複視を訴えていたものであり、右眼瞼の下垂の存在と、右眼が外斜視となり、眼球運動が外転を除く全方向で制限されていることから、その原因が右動眼神経麻痺であったことは明らかである。
動眼神経麻痺はその約六〇パーセントが回復するとされており、原告も受傷二か月後には右眼上転〇ミリ、内転三ミリ、下転三ミリであったのが、さらに三か月後には上転二ミリ、内転八ミリ、下転四ミリと改善している。眼瞼下垂も受傷の三か月後には改善が急速と記録されている。
ただ、その後の改善は眼瞼下垂以外ではあまり見られない。鑑定時には、右眼の眼球運動は、外上転制限が中等度~高度、内上転制限が高度、内転制限は軽度、内下転制限は軽度、外下転制限は軽度~中等度で、外転制限はなかった。なお、上方視に際しては、眼球が内方に偏位する異常連合運動があった。すなわち、正面より下方二五度を中心とするごく一部の範囲を除いて、複視が全方向に認められる。もっとも、鑑定時においても、原告は眼帯を装用しておらず、複視を減ずるために少し顎を傾けた代償性頭位を取っており、この位置だとある程度両眼視が可能と見られる。
そして、鑑定時には、上転のみは殆ど回復していないものの、眼球の下転がかなり回復しており、形成外科での眼球牽引テストが陰性であったとの結果からも、複視を減ずるための斜視手術は可能と考えられ、原告の複視は、別表一二級一号の「一眼の眼球に著しい運動障害を残すもの」に該当すると見るのが相当である。
この点について、原告の主治医である証人佐藤慎一は、正面視における複視は、むしろ片眼を閉じた方が見やすいほどであることから、片眼視力ゼロと評価できるとして、別表八級一号「一眼が失明し、または一眼の視力が〇・〇二以下になったもの」に当たり、あるいは、「一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になったもの」に当たるという。そして、原告本人によると、退院後一年程は眼帯をしていたが、主治医から、一生直らないので、そのままで見る訓練をし、生活に慣れるようにすることを勧められたためであるという。
けれども、原告の複視が高度ではあるが、現に両眼視を試みて生活しており、一定の場合には複視とならないのであるから、片眼を閉じた方が見やすく、正面視が通常であるからといって、一眼失明と同視するのは自賠法別表の如き一定の役割を果たす基準の存在に照らしても、行き過ぎである。
<4> 右三叉神経の麻痺、知覚異常
この、頬を動かす神経の麻痺等が存在することは争いがない。その結果、食事の際に右側の口の中をよく噛んでしまう。これは別表一四級一〇号に該当する。
<5> 顔面の醜状について
証人佐藤は、眼裂の左右差(非対照)と、眼球が同調しない状態が著しいとして、別表七級一二号の、「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」に該当するとする。
このうち眼裂の左右差は一見して明らかに判るものではなく(鑑定によると、瞼裂幅は、正面視で右九ミリ、左一〇ミリ、上方視でも右一一ミリ、左一三ミリと、一、二ミリ程度の差しかない。)、醜状とはいえない。
しかし、検甲一、二、証人佐藤、鑑定の結果によると、対面して見ても、原告の眼球は同調して動かない場合が多いことが明らかである。左眼が正面を見ていても、右眼は眼瞼下垂で下方を向いており、左眼が上方に向いているのに、右眼は正面を向いているという状態で、いわゆるロンパリを際立たせたような状態である。下を見るときは殆ど判らないものの、特に上方を見るときは著しく、左右を見るときも、多少の差が認められる。ただ、平成八年に撮影された写真(検甲一の1、2)に比べて、鑑定時(平成一一年七月)には多少改善したように認められる(鑑定書添付写真)。
右の非対照性は、原告が若い女性であることを考慮すると、「女子の外貌に著しい醜状を残すもの」とまではいえないものの、「女子の外貌に醜状を残すもの」に準ずるものとして、別表一二級一四号には該当すると見るのが相当である。
3 結局、原告には、<1>視力低下(別表一三級一号)、<2>右眼調節機能障害(別表一二級一号)、<3>複視(別表一二級一号)、<4>三叉神経麻痺等(別表一四級一〇号)、<5>顔面醜状(別表一二級一四号)の、各後遺障害が残ったと見るのが相当である。そしてこれらの後遺障害は、併合して、別表一一級に相当すると解する。
二 争点2(損害額)について
1 付添い看護費用 二三万円
神戸市立中央市民病院四六日間の全入院日数についての、家族の付添い看護費用の請求である。同病院が完全看護であったことは弁論の全趣旨から認められるが、前記認定の原告の受傷の部位程度、ことに顔面や脳の負傷であり、入院当初は半昏睡状態にあったほどであることなどからすると、家族(母と短大生の妹)が原告の入院中に付き添ったのはごく自然なことであって、一日当たり五〇〇〇円程度の割合による、付添い看護費用を認容するのが相当である。
5,000×46=230,000
2 入院雑費 五万九八〇〇円
一日一三〇〇円の割合により認めるのが相当である。
1,300×46=59,800
3 通院交通費 一一万五〇〇〇円
原告本人によると、原告は通院に際して、複視であることから眼帯を付けねばならず、そうすると人込みに酔って頭痛がするなどして、公共交通機関を利用することができないため、タクシーで通院したこと、一回の往復にタクシー代として五〇〇〇円程度を要したことが認められる。原告の住所(神戸市灘区鳥帽子町)と中央市民病院(神戸市中央区港島中町)との距離からして、右代金は妥当なものと解される。ただし、原告の実通院日数は脳神経外科への通院日数二三日を超えるものとは認められるものの、脳神経外科の診療を受けずに眼科あるいは形成外科の診療のみを受けた日数が証拠上判然としないので、二三日分のみ認める。
5,000×23=115,000
4 休業損害 四九四万七九四五円
証拠(甲五、原告本人)によると、原告は、本件事故当時、実父が代表者を務める東楽商事株式会社が経営する山形市内のパチンコ店で月の半分程度を勤務し、それ以外は実家のある神戸で家事労働をして、右会社から月額二五万円の給与の支払いを受けていたことが認められる。
一般に、主婦などの家事労働については、これを金銭に評価して賠償されるべきであるが、本件のように給与の名目で家事労働の対価が支払われている場合、支払われている金額をそのまま休業損害を算定する際の基礎収入とすることは妥当でない。なぜなら、肉親の間で家事労働がなされ、かつ、それについて対価の支払いがなされる場合、支払われる金額は必ずしも経済的合理性に支えられたものとはいえず、労働の対価以外のものも含まれていると解すべき場合のあることは、経験上明らかであり、むしろ肉親からの経済的援助の部分や、利益の分散という側面を有することが多いのであって、それにもかかわらず、その合理性を欠いた対価を基準として、労働の価値を評価するのは不合理であるからである。
けれども、原告が支払を得ていた金額は月額二五万円すなわち年額三〇〇万円であって、右金額は、賃金センサスによる同年齢層の女子労働者の、平成五年度平均賃金(三三二万七二〇〇円)ないし原告の学歴(原告本人)である高校卒業女子労働者の平均賃金(三〇四万八八〇〇円)を下回るものであるから、右の現実の収入額をもって、原告の基礎収入とするのが妥当であると考える。
そうすると、原告が本件事故の翌日から症状固定までの六〇二日間稼働できなかったことにより被った休業損害は、次のとおりとなる。
3,000,000÷365×602=4,947,945
5 逸失利益 九九二万八〇八〇円
後遺障害による逸失利益を考える際の基礎収入としても、右の現実給与額である一か月二五万円の割合による年額三〇〇万円をもってするのが相当である。
そして、前記認定のとおり、原告の後遺障害は併合して一一級に該当するものというべく、これにより原告は、その労働能力の二〇パーセントを失ったものとするのが相当であり、その喪失期間は症状固定時の年齢三一歳から六七歳までの三六年とするのが相当であるところ、ライプニッツ方式により中間利息を控除すると(係数は一六・五四六八)、原告の逸失利益は九九二万八〇八〇円となる。
3,000,000×0.2×16.5468=9,928,080
なお、被告会社は、原告の複視は手術により回復可能であり、適時に手術を行えば労働能力の回復は期待できるから、労働能力喪失期間も、通常手術を行うと考えられる時期までに限定されるべきであると主張するが、複視の程度を減ずるための手術は、原告の負った傷害の治療行為ではなく、後遺障害改善のための新たな手術であるから、原告が自らの行為によって傷害の程度を悪化させたような場合とは異なり、被告会社は、原告が手術を受けないからといって、手術を受けたならば減ずるであろう損害額に相当する賠償の責を免れることはできなというべきである。
6 傷害慰謝料 一八〇万円
本件事故が被告木下の一方的過失に基づく事故であること、原告は前記のとおり、主として顔面に重い傷害を負い、神戸市立中央市民病院に四六日間入院し、延べ四九日間の通院をよぎなくされたことなど考慮すると、この受傷により被った精神的苦痛に対する慰謝料は、一八〇万円をもって相当とする。
7 後遺障害慰謝料 三五〇万円
原告には前記認定の後遺障害が残ったものであるが、原告本人によると、複視のために、事故前に毎日のように楽しんでいたテニスや自動車運転はできなくなり、読書は片目のみを使っているが、疲れやすく、細かい化粧もできなくなったことが認められ、その他、若い女性であるのに、目立ちやすい不自然な眼球運動が残ったことや、その後遺障害等級などを総合すると、原告が本件事故による後遺障害により被った精神的苦痛に対する慰謝料としては、金三五〇万円が相当である。
8 過失相殺等
なお、被告会社は、本件事故が被告木下の一方的過失によって生じたものであるとする原告の主張については争うとしているが、当裁判所としては、本件事故は、その態様からして、被告木下の一方的過失によって生じたものと判断するので、過失相殺はしない。
また、被告会社は、遅延損害金利率は、年一パーセント程度が相当で、少なくとも、鑑定に要した期間から通常本件のような鑑定に必要とするであろう期間の限度と考えられる六か月を控除した期間に関しては、年一パーセントの利率を採用すべきであると主張するが、右主張を認めるべき法律上の根拠はない。
9 損害填補 ▲六〇万円
原告が、被告会社から、休業損害金の内金として、金六〇万円の支払いを受けたことは当事者間に争いがないから、以上認定の損害総額からこれを控除すると、残額は一九九八万〇八二五円となる。
10 弁護士費用 二〇〇万円
原告が本訴の提起遂行を原告訴訟代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、本訴の経緯や、難易度、右認容額その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係がある弁護士費用は、金二〇〇万円とするのが相当である。
三 結論
よって、原告の請求は、被告会社に対して、主文第一項の限度で理由があるからこの範囲で認容し、その余は理由がないものとして棄却することとする。
なお、右に認容した限度で、被告会社の債務は、後記の被告木下の債務と、不真正連帯債務の関係にある。
第四 被告木下関係の判断
一 被告木下は、本件口頭弁論期日に出頭せず、原告の主張に対する認否反論をしないから、原告の請求原因事実(前記第二の「三 前提となる事実」並びに「五 当事者の主張」のうち1(一)及び2(一)の原告の各主張)を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。
二 右の自白したものとみなされる事実を前提とすると、原告の本訴請求のうち、付添看護費用、入院雑費、通院交通費、休業損害、逸失利益については、理由がある。傷害慰謝料については、傷害の部位程度、入通院期間を考慮すると、一八〇万円を相当とする。後遺障害慰謝料は、後遺障害の部位程度、原告の年齢等の事情を考慮すると、一〇〇〇万円を相当とする。さらに、被告会社からの弁済により六〇万円の損害填補がなされたことについては原告の自白するところであるから、控除される。以上によると、原告が被告木下に請求しうる損害賠償額は五七五三万三五五〇円となるところ、右認容額その他本件に現れた諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は、五〇〇万円の限度で本件事故と相当因果関係ある損害といえる。
三 そうすると、原告の被告木下に対する請求は、六二五三万三五五〇円の限度で理由があるから認容し、その余は理由がないものとして棄却する。
なお、右に認容した被告木下の債務は、前記の被告会社について認容した債務と、不真正連帯債務の関係にある。
第五 よって、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条ただし書を、仮執行宣言につき同法二五九条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 下司正明)
(別紙) 損害計算表